大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和33年(う)250号 判決 1958年10月16日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴趣意は、弁護人及川憲一郎名義の控訴趣意書及び追加控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

原判決の認定した罪となすべき事実は、要約すれば、被告人小野寺熊次郎、同高橋猶寿、同横山九助、同小野寺春之進及び同小野寺清六は留山金蔵とともに昭和三二年七月一六日施行の気仙沼市農業委員会委員選挙に同市鹿折地区から立候補したが、被告人後藤昇を加えて協議したうえ、競走を避けるため抽籖の方法で六名の候補者を三名にしぼり、籖に負けた者は立候補を辞退すること、籖に勝つた者は立候補を辞退すべき者を慰労するための費用及び同人等がその支持者等と話合をする際の諸経費を負担することを取りきめ、抽籖を実施した結果、被告人小野寺熊次郎、同高橋猶寿及び同横山九助の三名が勝つたので、右取りきめに基くその後の取計いいつさいを被告人後藤昇に委ね、ここに、右被告人三名及び被告人後藤昇は共謀のうえ、被告人後藤昇において、原判示日原判示場所で、籖に負けた被告人小野寺春之進及び同小野寺清六に対し、慰労の趣旨で一人当り約一、一〇〇円相当の酒食の饗応をし、同被告人等の前記諸経費にあてさせる趣旨で各現金八、〇〇〇円を供与し、被告人小野寺春之進及び同小野寺清六は右酒食の饗応及び現金の供与を受けたというのであるが、原判決挙示の証拠によれば、以上の事実はゆうに認定することができる。籖に負けた者がいずれも恒産あり生活の安定している人であること、その他控訴趣意書記載の論旨第六点にかかげる諸事情は被告人後藤昇が右酒食の饗応及び金銭供与の趣旨を認識していたことを認めるに妨げとなるものではない。而して前記農業委員候補者の被告人小野寺熊次郎、同高橋猶寿及び同横山九助の右所為は、まさしく農業委員会等に関する法律一一条により準用される公職選挙法二二三条三項の公職の候補者等の身分によつて構成する立候補辞退のためにする買収犯の共同正犯に候補者たる身分のない被告人後藤昇の右所為は、身分により構成すべき右犯罪行為に共同加功したものとして、刑法六五条一項に従い右罪の共同正犯にそれぞれ問擬さるべきものであり、被告人小野寺春之進及び同小野寺清六の右所為は、同様準用される公職選挙法二二三条一項三号の受供与罪を構成することは疑を容れる余地がない。論旨は、気仙沼市農業委員会委員選挙において鹿折地区は定員三名の独立選挙区であり、候補者六名を抽籖の方法で三名にしぼつたためその三名が無競走当選と確定し、結局選挙が行われなかつたのであるから、本件においては適法な選挙の行われたことを前提とする右法条所定の罪は成立しないといい、或は抽籖の方法で候補者をしぼることは、選挙運動ではないから、被告人等の所為に対しては選挙運動に対する罰則である右法条の適用はないと主張する。しかし、選挙とは、一般に多数人の集合意思によつて特定の地位に就くべき人を決定する行為である。而して、選挙の方法として、選挙人である多数人がそれぞれ特定の候補者に対して投票し、有効投票の多数を得た候補者をもつて当選人と決定するのが通常であるが、投票は必ずしも選挙の絶対的要件ではなく、時としては、立候補の届出をした者がその選挙において選出さるべき者の定数を超えないため若しくは超えなくなつたため、投票を行わないでその候補者を直ちに当選人と決定することもありうるのである(公職選挙法一〇〇条参照)。いいかえれば、投票を行わないで当選人を決定することも投票を行いその結果によつて、当選人を決定することとひとしく選挙における当選人決定の一方法であつて、投票を行わないで当選人を決定したがゆえに選挙が行われなかつたとする見解は、投票すなわち選挙であるという誤つた観念に捉われたものというほかはない。したがつて、かような見解を前提とする主張は採用のかぎりではない。また、候補者が他の候補者に対し候補者たることを止めさせる目的をもつて酒食を饗応し、若しくは金銭を供与すれば、公職選挙法二二三条三項の罪は直ちに成立し立候補を辞退すべき者を抽籖の方法できめることが選挙運動といいうるかいなかの議論のごときは、右罪の成否を論ずるについては、無用の穿さくというべきである。論旨は、被告人後藤昇は、抽籖の世話人及び宴会の会計係をつとめたにすぎないから、同被告人の所為は選挙犯罪にはならないといい、或は同被告人は候補者たることを止めさせるための周旋若しくは勧誘をしたにすぎないから、同被告人の所為が同条一項四号の周旋又は勧誘の独立罪を構成するは格別、同条三項の買収犯の共同正犯をもつて論ずることはできないと主張する。しかし、同被告人が刑法六五条一項により右買収犯の共同正犯に問擬さるべき行為をしたものであることは、さきに説示したとおりであつて、所論のように単なる抽籖の世話人及び宴会の会計係をつとめ、候補者たることを止めさせるための周旋若しくは勧誘をしたにすぎないものと認めることはできない。なお、被告人小野寺春之進及び同小野寺清六に対する前記買収行為が被告人小野寺熊治郎、同高橋猶寿、同横山九助及び同後藤昇の共謀に基く犯行と認められる以上、右共犯者各自が前記買収行為の全部について罪責を負担すべきものであることは、共犯理論に従えば当然のことである。されば、立候補を辞退すべき者を選定する方法として、一の選挙区である鹿折地区を上中下の三区に分け、各区に六名の候補者中の二名ずつを配分し、その各区の二名間において抽籖するという方法を採つたのであるから、一つの区で籖に負けた者に対する買収行為については当該区において籖に勝つた者のみが罪責を負担すべき筋合であるというがごとき議論は、こじつけの論である。論旨はひつきよう事実の認定、法令の解釈等につき独自の見解をかまえてみだりに原判決を論難するにすぎないものと認めざるをえない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 門田実 裁判官 山田瑞夫 有路不二男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例